あなたのピアノ、調子が悪いのは汚れのせい? ピアノのホコリ、カビ対策
調律の際、ピアノにつもっていたホコリや指紋をふき取ってあげる。それだけで結構見た目がキレイになり、ユーザーさんはとても喜んでくれます。
あるいは、ピアノにきれいなカバーをいつもかけていて、普段からとても見た目に気を使っているユーザーさんも多くいます。
いずれも、ピアノの外側、見た目に着目しているわけなんですが。
でも、ピアノ調律師のわたくしとしては、見た目も大事だけど、隠れていていて見えないピアノの内部には、それ以上に着目してほしい、といつも思ってしまうのです。
実はピアノの内部は、ものすごく汚れていることが多いんです。そして、それがピアノの弾き心地や音質を悪くしたり、最悪、ピアノの寿命を縮めてしまったりするからです。
むずかしい話はしません。きょうは、ざっくりとピアノの中の汚れってどんなものなのか、そしてカンタンにできる対策と予防についてお伝えしようとおもいます。
【1】 ピアノの内部は、こんなに汚れている
まず、ピアノの汚れにはどんな種類があるのか、みていきましょう。
■気づくと溜まっている“ホコリ“
一番多いのは、内部のホコリです。
外装のすきまや鍵盤のすきまなど、ピアノは思ったほど密閉されていません。
鍵盤の下や部品の間には、長期間掃除されていない場合、ビックリするほどホコリが溜まっています。
ちょっと、おもしろい実験をしてみました。↓↓↓
鍵盤の下にライトを入れてみます |
かなり光が漏れているのがわかります |
こうするとよくわかりますよね?
一見、密閉されていそうなピアノも、実はこんなに隙間があるんです。
■ 弾いていないとどんどん“サビ”がついてしまいます
ピアノの弦はもちろん金属でできています。
それ以外にも、鍵盤の支点となるピンや、ハンマーの軸となるピンなど、重要な可動部分にはたくさん金属がつかわれています。
とくに長期間弾いていないピアノは、乗っていない自転車のようにサビがつきやすくなっていまいます。
また、ピアノの設置場所が海に近い方、要注意です。高い確率でサビが発生していることがあります。
■いや~な匂いのする“カビ”
これはピアノの裏側です。湿気がちな場所にあるためカビがビッシリ・・・。 |
内部の空気を何年も入れ替えていないピアノは、外装を外したときの匂いですぐにわかります。
■隙間から侵入してくる“虫・ネズミ”
ピアノの内部には、フェルトやホコリなど、虫やネズミが巣を作るのに最適なものがたくさんあります。
鍵盤の隙間やペダルの隙間などから侵入して、そのまま居ついてしまいます。
【2】 汚れを放っておくと、ピアノは壊れやすくなるのか?
「中が汚れてても見えないから気にしない」という方、それは大間違いです。
内部の汚れは、放っておくとピアノの寿命を一気に縮めてしまうんです。
この写真は、鍵盤がささっている金属製のピンです。ガサガサにサビついてしまっています。
鍵盤がささっている金属製のピン。ガサガサにサビた状態。 |
この状態で弾くと、鍵盤がスムーズに動かないので、タッチが重くなったり、鍵盤が戻ってこなかったりします。
弾きづらいだけではなく、そのまま弾いているとザラザラしたサビがヤスリのようになり、周りのフェルトが削れてしまうことも。
サビを放置したことで、本来であれば必要のないフェルトを張り替える修理が必要になってしまいます。
また、弦も金属でできているためサビやすくなっています。
サビてしまった弦 |
サビがついて重くなった弦は、本来のキラキラした音が出ないのはもちろん、当然切れやすくもなってしまいます。
厄介な侵入者、虫やネズミは、お菓子の食べかすなどにつられてやってきます。
ピアノにつかわれているフェルト類は、ネズミの巣作りに最適なようです。
鍵盤の下ではネズミの生活の跡が・・・ どうやら引っ越し済みのようです。 |
上の写真のようにクッションの役目をしているフェルトが喰われてしまうと、木と木がぶつかったり、木と金属がぶつかったり、雑音の原因になります。
また、音を出すのに必要な部品が食われてしまい、鍵盤を連打できなくなることもあります。
ホコリそのものは、直接音や弾き心地に影響することは少ないのです。しかし、空気中の水分を引き寄せ、ピアノが湿気がちになったり、サビ、虫など、他の汚れの原因となります。だから、ホコリもちゃんと取ってあげたほうがいいのです。
鍵盤をはずすとホコリがびっしり!! |
【3】 ホコリ、カビ対策。内部の汚れを防いでピアノを長持ちさせる
では、内部の汚れからピアノを守るにはどうしたらいいのでしょうか。
まず第一に、汚れの原因となるホコリをピアノの中に入れないようにすることです。
対策としては、ピアノカバーをかけるのが一番です。
カバーにはいろいろ種類がありますが、ピアノの下まで覆うオールカバーというタイプが、もっともホコリを防いでくれます。
レースタイプのカバーだけをかけている方もいらっしゃいますが、あまりホコリを防ぐ効果はなく、ピアノの外装がレース模様に汚れてしまうのであまりおすすめできません。
しかし、それでも時間が経つと、少しずつホコリは溜まってしまうものです。
・・・とはいっても、自分でピアノをばらして掃除するのは大変です。
ですから、以下の二点について、覚えておいてください。
1) グランドピアノ、またはアップライトの蓋を定期的に開け、空気の入れ替えをする
2) 年数をある程度経た場合(目安2年~5年以上)、内部の掃除を調律師に頼む
グランドピアノであればたまに屋根をあけましょう。アップライトピアノも上の蓋をあけることによって、少しですが空気が入れ替わります。
特にカバーをかけていると中の空気がよどみがちになるので、空気を入れ替えることでカビも発生しづらくなります。
溜まった汚れが心配な場合は、調律師に掃除を頼みましょう。
ホコリは掃除機やブラシで掃除し、木のシミなども拭き掃除をします。
以下の写真は、ピアノの下側パネルを外したところです。
15分くらいの掃除で、こんなにきれいになります!
掃除前 | 掃除後 |
とにかく、ホコリは故障の元なので、溜めないことが重要です。
それから、金属部分がサビつかないようにする一番の対策は、ピアノを定期的に弾くことです。
長期間弾かれていないピアノは、鍵盤も動かず、弦も振動しません。だから、どんどんサビついてしまう。
もしサビてしまった場合は、部品をバラして削ったり、薬品でサビを落とした後、サビ止め剤を塗ります。それによって、サビづらくなります。
ピアノだって、キレイになりたがっている
ピアノ調律師としてのわたしの立場からいえば、ピアノの掃除については、こう考えています。
美容院で髪を切る前に髪を洗うようなもの
すっきりキレイにした後でないと、調律や、その後の調整が生きてきません。
内部をきれいに保つことは、ピアノをいつまでも快適に弾きつづけるための大前提なのです。
女性がお化粧するとき、きょうはどうもお肌の調子がいまいち、化粧のノリがよくないことってあります。
健康的なほんとうの美は、表面だけで成り立つものではなく、体の健康と共にあるからでしょう。
ピアノだって、女性のようにキレイになりたがっている、とおもいます。
でも、いくらキレイなカバーをかけて表面にお化粧をしてあげたとしても、内部の体がホコリとカビでボロボロ・・・
こんな不健康な状態では、 美人だいなし。
結核や肺炎を患っていたショパンのメロディーを、こんな不健康なピアノでたまに弾いてみるのも風流といえばそうかもしれません。
ですが、おもいます。「 わたしの本当の美しさと音色は、こんなもんじゃありませんわよ」と、きっとピアノも嘆くに違いないだろうと。
あなたのピアノからは、こんな嘆きは聞こえてこないことを祈りつつ・・・
以上、ピアノの汚れとその対策についてでした。
お役に立てれば、幸いにおもいます。
執筆:中嶋
中嶋ピアノサービス (東京都)